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どっかで聴いた話 Act3
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これで、本当に君は満足できたのかい?」

私はもう喋る事のない、写真の中の彼女に語りかけた。

ある戦場へと派遣された軍医師団である我々は
飛行機の不調で已む無くジャングルに不時着した。
その先の村で起こっていた事態。
重大な放射線障害。何人も生まれる奇形児。

もう何年前になるのだろう。
調査に当たった私の友人が亡くなった時に
村の少年がつぶやいた言葉を私は忘れることが出来ない。

もし、私達が彼らの言葉を学ばなかったら。
もし、もう少し理解が浅ければ。

我々にも別の道があったかも知れない。


『ああ、こんな綺麗な手足がボクにもあれば…!』


あの言葉を聞いてすぐに私の恋人が既に
埋葬しかけていた友人の体を引っ張り上げた。
泥と土ぼこりにまみれながら
彼女は笑顔で私の方を向いて言った。

「臓器はボロボロだけど、
まだ末端の方の被害は少ないわ。
この手足を彼に移植してあげましょう!」

―――昔から彼女はこんな性格だった。
困っている人を見ていられない私はそんな彼女が好きだった。
だから同じ病院に勤務し、同じ戦場へと向かったのだ―――

1度始めてしまうと次から次へと移植を求める声は増えていった。
友人の死体がもう使えない臓器だけとなった時にもまだ、
次から次へ移植を待つ人が名乗り出た。

仕方なく我々は1人1つづつ臓器や手足などを
彼らに提供して行く事にした。
彼女の父からは左足。
私の叔父からは肝臓の一部、と言った具合に。
しかし私と彼女だけは手術を行う執刀医として
その役は免れていた。

それから更に数年経過し、
ある程度奇形児の発生が減少されて来た。
恐らくあの岩が見つかってから
もうかなりの年月が経つからだろう。

彼女の父も私の叔父も
他の医師も皆死んでいった。
移植後の負担と慣れない土地の生活が
彼らの健康を激しく蝕んだのだ。
私と彼女はその死体の体も次々村人へ移植していった。
戦場で使うはずだった新技術と新装備はこうして
地図にも載っていない名も無き小さな村で活用されていった。

彼女は悲しがらなかった。
私が家族や仲間の死を悼んでいると
彼女はいつも笑顔でこう言って私の肩を優しく叩くのだ。

「だって、死んでも皆は村で一緒に生きているじゃない」

そしていつしかそれが彼女の口癖になっていた。

更に年月が流れ、私も彼女も年を取った。
しかしついに我々の方の移植する"部品"がなくなってしまったのだ。
冷凍保存していたはずのストックも使い果たしてしまった。
しかし移植待ちの人はまだ数人残っているのだ。

決断を迫られ、
最終的に私か彼女が自らの体を提供する事になった。
長い話し合いの据え、彼女がドナーとなった。
その時には彼女より私の方が断然手術の腕前が上だったのだ。
麻酔をかける直前に

「これで私が死んでも貴方は大丈夫ね
私は皆と一緒なんですもの」

1人目は足
2人目は腕
3人目は胃の半分
4人目は両眼球
5人目は左肺

そうして村の殆ど全ての奇形児―もう大人だったが―
の手術は終了した。

目も見えず足も無く片腕片肺になった為に
喋ることすら億劫になってしまった彼女。
私は手術を終えた直後、後悔に苦しんだ。
いつも隣にいた彼女。私の支え。私の全て。

しかし手術を終え不憫になった体で
私に振り向き微笑んだその顔は
今まで見てきたどの彼女よりも綺麗だったのだ。


ある日私と2人で高台から景色を眺めていた時。

振り返った時には車椅子の上で彼女は微笑みながら死んでいた。


更に、更に数年が過ぎていった。 私はすっかり老人になり、
この仮設病院へやって来る患者も殆どゼロに近くなった。
村にも文明が入り込み、外の町への舗装された道路が出来た。
規模も大きくなり、もうここは村とは呼べないだろう。
全ての元凶の岩は無人機械の手でバラバラにされた後に埋められた。


大通りには銅像が立てられた。 見てくれればわかると思う。
・・・もう少し下の方、もう少し右側に見えるアレだ。


『偉大なる神の使わした天使達の像』


あの中央右よりの大きな旗を持ってる女性が彼女だ。


昔から変わらないこの高台から町を、あの像を、
昔の写真を眺める度に、私は今でも彼女に語りかけるのだ。

「ああ、君はこれで良かったのかい?」

最後まで笑顔で逝った彼女は本当に正しかったのか。


今日も 森の向こう側へ綺麗な夕日が沈んでいった。

 

 

 

 

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